今回の記事は価格と質の関係性について書かせて頂きます。
ジュエリーは高額なものが多いですが、「やはり高いもの程、質もよいのでしょうか?
安いものはそれなりなのでしょうか?」とよく質問されますがすべてがすべてそうだとは一概にはいえません。
今回はそのような内容を当店の考えを書かせて頂きます。
よく耳にする言葉に相場というものがあります。
ジュエリーに関しましては、分かりやすいものと致しましてブライダルリングなどは
初めて本格的なジュエリーを購入される機会となられる方様も多いかと思いますので結婚指輪や婚約指輪の相場などをお調べになる方も居られるかと思います。
では、その相場とは何を基準にしているのでしょうか?
恐らく、小売店の店頭に並んでいるジュエリーの価格とそこから購入されるお客様の平均的な購入金額から算出されているのでしょう。
価格に対しての質について吟味する上で前提として、
では小売店に並んでいるジュエリーの価格などのようにして決められているのか?
ということになります。
ジュエリーは特にブランドによって結婚指輪一つをとっても値段は大きく異なります。
いったい何が価格にあれほどの差がうまれるのかということになりますが、
これをご説明するには日本のジュエリー業界の流通の仕組みから述べさせて頂く必要があります。
ジュエリーにおける日本の市場形態は世界的に見ても独特でなおかつ複雑な形をとっている所が多いです。
図のように作る場所(製造メーカーや各工房)、デザインの立案や企画をする所(各種メーカー)、ジュエリーの製作依頼やデザイン依頼をして小売店に商品を卸す問屋、お客様へ商品を提供する小売店といった具合にそれぞれが独立して存在し、各々の役割を担っています。
この形態は日本独特であり、ジュエリーという商品の多くは海外発祥のもので、日本に流通しだした当初は多くの取引が英語圏のため、言葉の壁や文化、ジュエリーの知識面から海外企業との仲介を行える商社がメーカーを担う必要があったことに起因します。
現在ではすべてを一貫して行うブランドやインターネットの普及によりこういった仲介企業の中抜き(通販による無店舗経営)などが可能となりいろいろな市場形態が存在しており一概にはいえませんが、
企画する、デザインする、素材をそろえる、作る、売るの工程は新品のジュエリーをお手元にお届けする際には必ず通る工程です。
これを単独で行うところもあれば、それぞれ複数で担っている所もあるでしょう。全国に店舗を展開している所では販売店、商品企画、管理、工場などをもっていてそこで働くたくさんの人たちの手で運営がなされています。
また、商品を知ってもらうため、広告をテレビや雑誌に掲載しているところも多くあります。
そういった経費や業者間での中間マージン(各業者の利益分)、各部署の人件費がその商品の価格に乗ってきます。
それを含めたブランド代とも言えます。
価格の大きな差はこの部分に起因するかと思います。
つまりブライダルリングを例にするのであれば
価格=素材代+製作代+上記中間マージンを含むブランド代
といえます。
では本題の価格に対して質もよいのか?というお話しに戻りますと、
一概に言えないのが上記部分という訳です。
中間マージの部分はその企業やブランドの方々にしか正確には把握できません。
ですのでユーザーであるお客様は価格に対しての質で判断するしかありません。
ブランドのこだわりに関係なく、良質な物を求められるのであれば、
お目当ての指輪の価格の中に含まれているであろうブランド代ともいえる経費やマージンを
費やしたことでそれがしっかりその指輪の質に反映されているのか、
あるいはそれに対して質が伴っていないのかを見極める必要があります。
では質の良いものとはどういったものなのでしょうか?
石については長くなりますので別の機会とさせて頂きまして、
シンプルな作りでわかりやすい平打ちタイプの指輪で今回は見ていこうかと思います。
(ブライダルリングで平打ち指輪を扱わないという店はあまり無いかと思いますので)
指輪の価格に対する質を見るのであればまず最初に見て頂きたいのは
指輪の素材(金種)と外見の違いです。
求める金種における指輪の幅、厚み、重さです。
平打ちタイプの指輪は特に比べ易いかと思います。(写真のタイプの指輪)
幅があるほど、厚みがあるほど必要な地金は増えます、それに比例して指輪は重くなります。
幅が同じなのにリーズナブルなものを見つけられたときは厚みや重さもしっかり確認されることをおすすめします。
厚みが0.5㎜違うだけで強度や着け心地も大きく変わります。
通販などでは幅を強調している所程、厚みの表記がなく、
購入してみると、とても薄くてつけると痛いなどの問題がよくありますので、
厚みもしっかり確認されることをおすすめします。
長く使われることや着け心地を考えると厚みは最低でも1.3㎜を私どもは推奨しております。
鋳造(キャスト)製品なら尚更かと思います。
実際に着けてみて着け心地を確認させるのも大切です。
内側の仕上げ方により肌さわりやフィット感はかなり違います。
こればかりは実際に着けてみないと分からないかと思いますが、
是非確認して頂きたい部分です。
平打ちタイプではあまり見受けられませんが幅や厚みはあっても内側をごっそり削って透かしてあるジュエリーもあります。
次に造りの面です。
ジュエリー製作には大きく分けて2種類ございます。
同じ幅、厚みであっても造り方により指輪の強度や着け心地、重さは大きく異なります。
現在一般的に用いられている製造方法は鋳造(キャスト)と呼ばれるもので
あらかじめ作ってある指輪の鋳型に溶かした地金を流して形成する型流しによる
製法で一度の工程で同じデザインのものならば大量に生産できるためコストを抑えることができます。
多くのジュエリーショップやブランドがこの方法により製作しておりますので
全国に多くの店舗をもっていても問題なくジュエリーをお届けできるわけです。
もう一つが鍛造(たんぞう)製法と呼ばれる製作方法です。
こちらは刀のように地金を叩き上げて鍛えることで圧縮し、頑丈にした地金を指輪に形成して作ります。
こちらは型流しとはことなり、圧縮し、頑丈にしておりますのでキャストに比べ強く、3~5倍ほど強度に違いがでます。変形などもほとんどしません。
そのかわり、圧縮し、削りだして指輪を作りますのでキャストに比べ使う地金の量は多くなり素材費は高くなります。
(その代り、同じ形でもキャストの物より重く、ずっしりしています)
また、一度の工程で作れるのは一本ですので手間とコストがかかり大量生産には向きません。
そのため、多くの方にお届けするということは難しいため、鍛造によるジュエリー製作を行うところはほとんどありません。
また、キャストに比べ複雑なデザインの指輪を製作するにはさらに手間と職人の技術が必要となるため、対応できる職人も圧倒的に少ないのが現状です。
価格に対して質を見られる場合
まずその指輪がどのようにつくられているのか?
鍛造(たんぞう)か鋳造(キャスト)なのか?
幅や厚みや重さ、着け心地はどうか?
を確認されることが大切です。
石が付いているのであればその石の価値を考慮する必要もあります。
石についての価値判断は別で取り上げさせて頂きます。
ブライダルの場合、
結婚指輪の相場が二人で15万~25万と聞きます。
その価格に対して素材費(使われている地金の量)
は同じサイズにおける重さや幅、厚みで大体比較できるかと思います。
それを差し引いたものが製作費や先に述べさせて頂いた中間マージンを含むブランド代となっています。
この製作費やブランド代に質が伴っていなければ、
好きなブランドではない限り、質を求められるのであれば考え直すことも大切です。
高ければ質が良いのか?
安ければ質がわるいのか?
価格に対しての質は上記の事を踏まえて、
デザインや着け心地を確かめられれば判断基準のベースアップになるのではと思います。
もちろん好きなブランドを身に着けることがステータスとなる場合も十分にありえますし、
好きなブランドを身に着けているときの喜びは特別です。
それがブランド力ですし、そのブランドになりうるこだわりや質を持っているところもたくさんあります。
ただ、売ったらおわり
サイズ直しもしないで、新しい指輪の購入を勧めたり、自分のお店の商品にも関わらず、
壊れても直せないという状況でブランドを掲げるのはいかがなものかと思いますし、
最近はそのようなところが増えてきたように感じます。
事実、私どもがお受けする修理の中には買ったところで修理を断られたなどという事例がしばしばございます。
これは先に述べました通り、日本のジュエリーの市場が複雑であり、
売る所と作る所が別々だったり、小売店が問屋からジュエリーを委託して販売していたりと
自身の商品に対して知識が乏しかったり、責任をもって判断できない部分が多くなっているためではと思ったりもします。
こういった形態で商品を提供してしまうと、
自分が売っている商品が元はどこから来て、どのように作られているのかすら把握していないなんてことはよくあります。
自分で作ったわけではないので造りが正確にわかるわけではなく、自主的に勉強していないと質や着け心地においてなにが良くて何が悪いかを説明できない、現場で修理の有無が正確に判断できない訳です。
なので見た目やデザインばかりを売り文句にし、何十年も着けるという本質の部分が抜けてしまいます。
その結果デザインを気に入って買ったのに
数年したら変形したり、ミルがつぶれてガタガタになったり、傷だらけでつけたくなくなったりとお客様が悲しい思いをしてしまうのです。
ひどい話ではサイズが変わったのでサイズ直しを頼んだら、指輪を切るのは縁起が悪いので新しく買った方がいいですよとかお持ちの指輪を買い取って新しく購入された方がお得ですよなんてことを言われたというお客さまにも出会いました。
つまりアフターフォローもしっかりしてくれるのか、
長く使うことを念頭にいれて作られているのかも確認することが大切です。
そのときはリーズナブルでも長く使っていくうちにお金がかかるのであれば一緒ですので。
現在はさまざまな形態をとっているお店があるととお話しさせて頂きましたが
そういった抜けを無くすためにすべてを一貫して一つのブランドで行うところも増えてきましたし、アフターフォローに力を入れられているところもあります。
私どものように以前は小売店やメーカーに作品を卸していた工房や工場も直接お客様とやり取りができるようになってきました。
工房との直接のやりとりにより上記の中間マージンを大幅にカット(卸値で提供)でき、
実際に作る職人が対応しますのでアフターも責任が持てます。
自分が作ったものを直せないというのは無いのですし、メーカーに依頼され作るのではなく、
素材選びから、お客様とデザインのご相談、製作、お渡し、アフターも同じ職人が行いますのすべての状況を把握し、ご要望に対応することができます。
実はヨーロッパなどのジュエリー店の多くは工房がお客様と直接やり取りをする形をとっていたりもします。
その点からも小売店という独立した形態は日本独特と言えます。
少なくとも当店の場合は
石選びから、デザイン、幅、厚み、着け心地など納得頂くまでしっかりと指輪の質についてお話しさせて頂き、お客様のご要望を最大限取り入れながら、長年のいろいろな方様のお悩みや修理加工を通して、おすすめできないご要望はその理由も踏まえ、長く着けれることを念頭においてカウンセリングさせて頂いております。
なによりも、売り切りにならず、最後まで責任を持てる形でご提案させて頂いております。
ながくなりましたが現在は色々な販売市場形態が存在していますので
指輪の価格に対して質が良いかといわれるとそうでなないということがイメージ頂けましたでしょうか?
もちろん、安いものにも安いものなりの理由がありますのでその価格がどこに起因するのか確認されることも大切です。
逆を言えば、昔にはなかった販売形態がたくさんありますので
知識さえお持ち頂ければ、お客様にとって無駄なコストをかけず
質の良い指輪を手にすることができる時代になってきたとも言えます。
特にブライダルリングは人生で初めてのジュエリー選びになる方も多いですし、
人生で一度きりのお買いものでもあるかと思います。
大好きなブランドを身に着けるのも良いですし、
質にこだわられるのも良いです。
何かご不明な点、迷われていること、ご要望などございましたらお気軽にお問い合わせくださませ。
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