前回サイズ直しについての記事
「その人に合ったサイズ直し」を書かせて頂きました。
今回は当店の事例に沿って、より深く、
サイズ直しも場所、人によりクオリティの差があることなどについて書かせて頂きます。
大切な指輪のサイズ直しを検討されている方様の一つのご参考になればと思います。
指輪のサイズ直しに出された方で以下のような経験はありませんでしょうか?
・サイズ直しした箇所が歪んでいる。
・幅が細くなったり、厚みが薄くなっている。
・接合部分がはっきりわかる(溶接した跡が残っている)
・色の違いが分かる
・石が取れやすくなった、一度も外れたことがないのにサイズ直してから石がとんだ
・サイズ直し後、なぜか指輪の爪が折れた
・石が変色している
・サイズは大きくなったが痛いまま
などなど
こういったトラブルが生じた場合、それはサイズ直しが原因かもしれません。
指輪もサイズを変えると負荷がかかります、変化量が大きくなればなるほど、
様々なリスクを伴います。
サイズ直しを施した場所に違和感を覚えることがあるのはサイズUPの際が多いかと思います。
大きくするために必要な地金を適正量使わず、誤魔化して叩いて伸ばしたりする修理ですと、幅や厚みがその部分だけ細くなったり、薄くなります。
また、サイズ直しの際、糸ノコで真っ直ぐに地金が切れていないと合わせた時に隙間ができてしまいますし、指輪のカーブに合わせて切れていないとズレが生じます。
そのまま無理にロー付けをしても、指輪のラインに沿ったヤスリ掛けが出来ず段が付いたり、無理に合わせようとすると、必要以上に地金を削って薄くしてしまうことになりかねませんし、結果、歪んでしまったり・・・。
最悪の場合、着けた時にその部分が指にくい込んで痛みを感じてしまうこともあります。
『指輪に黒いスジが出てきた』 というのはサイズ直しの際のロー付け(溶接)の跡かもしれません。
指輪の素材(プラチナ・金・ホワイトゴールド)に関わらず、銀ローを使用してロー付けされている可能性もあります。
つまり、金属を溶接するのに別の金属を使っている可能性です。
金の指輪に銀ローを使うと明らかに色の違いが分かると思いますが、磨いて光らせることで一見分かり難くなるのです。
けれど、はめているうちに光沢がなくなってくるとロー付けの跡が見えて『黒いスジが出てきた』 ということがあります。
銀と同系色のホワイトゴールドやプラチナであっても、微妙な色の違いが出るので、
多くの場合、ロジウムメッキをして仕上げているので全く分からなくなっていますが、
やはり年月により小傷が付いたりして磨いてもらったときにメッキが剥がれてスジが出てしまうということもあります。
銀ローが時が経つと共に酸化してしまい溶接部分が黒い線のように見える場合もあります。
銀ロー以外に何があるのかと言いますと、
Pロー(プラチナ用)、金ロー(金用)、ホワイトロー(ホワイトゴールド用)、銀ロー(銀用)とそれぞれの地金に合ったローがちゃんとあります。
ではなぜプラチナや金の指輪に銀ローが使われるのか?
こちらは想像ですが、
銀ローを用いれば600℃と他のローに比べて低い温度で溶かせ、地金にダメージを与えることなく比較的簡単にロー付けできるので銀ローを使うのかもしれません。
Pローは、1200℃、金ローは800℃以上でないと溶けません。
地金が溶けるにはさらに100℃~200℃程の違いがあるのですが、1800℃のガスバーナーの火を当ててローだけを瞬時に溶かす技術とローが溶けるほんの一瞬のタイミングを見計る技術をマスターしていないと本体の地金まで溶かしてしまう事になります。
未熟な技術でロー付けをしようとすると本体の地金にまで高熱が加わり、地金がはじけてケガをしたり、指輪についている宝石にまで熱を加えてしまい変色やテリの喪失、クラックができたり、最悪の場合、石が割れて修復不可能な事態を招いてしまうのです。
そのため、最悪の場合を考慮して低い温度でも溶ける銀ローを使うのではないでしょうか。
あるいは、その危険性を回避するために宝石部分を水で浸した布で覆ったり、直接水の中に浸けてロー付けという方法を用いるところもあると聞きます。
しかし、懸念されるのは、パールや珊瑚のように穴の空いた宝石を指輪のピンに刺して石留めされているものは外側(表面)をいくら保護してもリングに加わった熱がピンに伝わり、パールや珊瑚の内側から熱が加わることになりますので、照りがなくなったり、ぼけてしまうという事態を招くことになりかねません。
ですので、万全を期すなら、必ず枠から一旦取り外してサイズ直しや修理をしなければいけません。
なら、一度全部枠から石を外せばいいと思われるかもしれませんがそれにおいてもいくつかの問題があります。
まず、指輪が鋳造(キャスト)枠であった場合、一度石を留めた爪を再び起こすことはリスクを伴います。
もし、爪部分に巣(鋳造工程で生じることのある空洞)が出来ていれば、折れてしまいますし、折れなくても、さらにロー付けの際に800℃~1200℃の熱を加えることになりますので、
全体に熱が伝われば、一度起こした爪で再び石を留めるというのはおすすめできません。
その時には問題なくとも加熱により強度事態はより劣化している可能性があり、使用中に石が飛んでしまう不安が残ります。
他にも酷い場合、石を接着剤で留めているものをあります。
エメラルドやオパールだった場合、取る際に石が剥がれたり、欠けてしまいかねません。
では最終的にどうすればいいのか??
パールやエメラルドのプラチナや金の指輪を安全に綺麗にサイズ直しする方法はないのか?
当店では石の種類を問わず、基本的に指輪のサイズ直しは、
共つけ(地金にあったローを使う、プラチナならばプラチナ)で行い、
素手で直接指輪を持って、3秒でローを溶かして地金を付けるという方法をとっています。
人の手に感じる温度は45度を超えると我慢するのがつらくなると言われています。
少なくとも、当工房では素手で45℃のものをもって熱く感じない者はおりません。
ですので、製品を素手で持ってロー付けをすることで高温の熱が宝石に伝わっていないか確認できます。
ロー付に必要な温度が1200℃であろうと
バーナーの温度を1800℃で用いた際でも、ローだけを瞬時に溶かす技術とローが溶けるほんの一瞬のタイミングを見計る技術があれば、3秒程度でロー付けができ、指輪には熱は伝わりません。
素手で持って、違和感なくロー付けできています。
これによりリスクを背負うことなく、石留めや石はずしなどの料金もかけず、出来るだけ多くのお客様のご要望に対応したお直しを心掛けております。
また、当店はプラチナの地金にはパラローを使うようにしています。
プラチナに混ぜるときに使うパラジウムのローなのですが、プラチナの地金とほぼ同じ色調なのでロー付けの跡が分からないくらい綺麗に仕上げることができます。
パラローは地金とほとんど変わらない温度でしか溶けないローなので地金を溶かしてしまう危険度が高いのですが、上記の理由から安全に利用できます。
サイズ直し一つにしても直し方は多種多様でございます。
レーザーによる溶接によりより安全にサイズ直しが可能な時代です。
ただ、機械によるレーザー溶接であっても用いる職人の技術や知識ひとつで
仕上がりは大きく異なります。
基本的に従来の火による溶接に比べ強度が落ちてしまうレーザーは溶接個所や溶接方法により
強度が足らずに指輪などは溶接部分が再び切れてしまうリスクも比較すると高いです。
そういったことでお困りのお客様が当店にサイズ直しを依頼される方も
しばしばおられます。
修理の際の修理代はお客様にとって、非常に重要です。
しかし、そこばかりではなく、その料金に対してどのような修理がなされているのか、
また、なされたのか、修理事態の質を見て頂くことも、
長い目でみると重要なことのように思います。
ながながとお付き合い頂きありがとうございました。
何か不明な点、ご質問、ご意見ございましたら、お気軽にお問合せ下さいませ。
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