宝石について詳しい方は一度は耳にされた事があるかもしれませんし、
また、しばしば、宝石の加熱、非加熱についてご質問されることもあるので、今回記事にさせて頂きました。
本質的なことを軸に私どもの考えを書かせて頂きます。
一般的に言われている宝石の加熱処理とはどのようにされているのか、実際に見たり、方法を知っている人は少ないかもしれません。
当店の店主が40年程前にタイを訪れた際、当時ビルマ(現ミャンマー)で行われていたいくつかの加熱方法の中で見せてもらえたのがサファイアの原石を麻か更紗という生地でくるんで練炭の穴の中に詰め、12時間以上だったと思うのですが加熱するというものでした。
途中の様子は見せてもらえなかったのですが加熱後の石を見せてもらいました。
どのような原石がどの青色になったかは教えてもらえなかったのですが無色の原石か有色の原石であるかは少しわかりました。
インクルージョンや気泡などがサファイアの石に色の変化をもたらすのだそうですが、ブルーの色の濃さがまちまちになったり、クラックが入ったりしてきれいに仕上がるのは少ないようでした。
何年か後、窯を作ったり、電気ローを使って加熱するようになったと聞いています。
加熱処理が施される石は様々ですが、特に有名なのはサファイアやルビーと言ったコランダムの宝石でしょうか。
方法は多々ありますが、原理的には加熱することでその宝石を構成する物質の一部が有色元素として働くことで、よりその石の色を濃くすることができます。
コランダムではチタンが加熱されることで溶けて、有色元素として働き、色を濃くします。
その原理を利用し、サファイアなどではチタンなどの有色元素になり得るものを粉末にして、石と一緒に加熱することでインクルージョンや気泡などがサファイアに色の変化をもたらします。
しかし、そのため、加熱処理したものは顕微鏡でみるとインクルージョン(内包物)が結晶構造の変化に伴い特有の変化がみられます。
それは色帯であったり、スノーボールインクルージョン(水中の空気や泡のようなもの)であったりと様々です。(これが加熱、非加熱の判断材料のひとつにもなります)
また、色は濃くなっても透明度は少し失われたりします。
なにより自然に生じた色ではないことから希少性という点で大きな差が生じます。
そのため、天然で非加熱の石が稀少とされ、加熱処理の石よりも価値があるとされています。
しかし、ここで注意して頂きたいことは、非加熱であるからと言って照りのない色やあまりよくないアクセサリークオリティのものを本来のジェムクオリティを無視して高評価していることがあるという事です。
同じ色味、透明度で加熱、非加熱を比べれば、間違いなく非加熱の方が稀少と言えますが、
美しい加熱処理石より、あまり色味もなく、美しくない非加熱石にこだわる必要はないように感じます。
ジュエリーは身に付けて美しく見えることが重要ですので、
色味、透明度が美しい天然の石であれば加熱処理された石ということだけで
候補から外してしまうのはもったいないかもしれません。
加熱処理は大昔から行われてきた人類の知恵でもあります。
本来薄い色だったものが、人の手によってより美しくなる、
良い色味の石を多くの人々が楽しむことが可能となっていますので、
美しい色味を知る、見つける目を養うには良い見本ですし、
最終的にその色味で非加熱の石を見つけられる目を持つこと、
美しい石を選び取る癖がつく方が今後の為になる様に感じます。
補足になりますが、加熱処理とは別に含浸(がんしん)処理という、オイルや樹脂、着色液などを宝石にしみこませることで照りや透明度、色味を変化させる人工的な処理方法があります。
この処理をされたものはあまりおすすめできません。
加熱処理は自然界で生じる現象と似たような過程を人為的に引き起こして、色を濃くしていますが、
含浸処理は力技のような処理の仕方でワックスやオイルでツヤや透明度をよく見せ、
着色で色味を着けていますので、加熱処理とは異なる処理です。
宝石を洗剤で洗ったり、超音波洗浄機にかけることで色が抜け落ちたりします。
また、加熱処理した宝石も色が変わるとも言われているそうですが、店主曰く、50年以上経つ加熱石において色が変わったなどと聞いたことも見たこともないそうです。
宝石を選ぶ際にはその石がどういった処理を施されているのかをしっかりと確認することが大切です。
そして、その処理がどういった物なのかを理解することも大切です。
価格、色味、ツヤ、透明度、大きさ、
人工の合成石か天然石なのか、天然でも加熱、非加熱処理の有無、それ以外の人為的処理の有無などなど
石一つに対してですら、注意すべき要素は意外かもしれませんがたくさんあります。
知らないことが多いとそれに比例して、理解されている方から信用して購入する必要があります。
逆を言えば、宝石を知れば、知るほど、本質的に満足のいくお買いものには様々な角度から比較し、
判断しなければいけない項目があることも分かってきます。
同じような価値でも値段が大きく異なる業界ですので、
価格に対しての本質的なその石の価値判断はジュエリーにおいて
非常に重要だと感じます。
今回、加熱・非加熱についての記事を書かせて頂きましたが、
ただ単純に非加熱が良くて、加熱が悪いという考えが危険だということ、
価値判断にはそれ以外にも色々な要素が絡んでいることを述べさせて頂きました。
今後もいろいろな角度からそういった要素を取り上げていけたらと思います。
疑問に思われていることなど、ございましたらお気軽にお問合せ下さいませ。
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